日本初の 「ゼロ・ウェイスト宣言」~人口1,700人の小さな町の取り組み~
ゼロ・ウェイストとは「無駄・浪費・ゴミをなくす」という意味の言葉。物の無駄遣いをせず、リサイクル(再資源化)、リユース(再利用)を進め、また生産段階から処理に困らない製品を作ることを言う。 日本で初めてゼロ・ウェイスト宣言をした徳島県上勝町。宣言から15年たった今を取材した。
分別のストレスをなくす45分別
ゼロ・ウェイストの世界的契機になったのは、オーストラリアの首都キャンベラ市が「ゼロ・ウェイスト宣言」をした1996年。現在は100以上の地域が世界的にゴミ処理政策としてゼロ・ウェイストを採用している。日本でゼロ・ウェイスト宣言をしているのは、徳島県上勝町(2003年)に加え、福岡県大木町(2008年)、熊本県水俣市(2009年)、奈良県斑鳩町(2017年)の4自治体。 また、宣言まではしていないにせよ、鹿児島県大崎町や神奈川県葉山町・逗子市などでも自治体、市民活動レベルで「燃やさない」「埋めない」を掲げたゴミ政策を推進している。
上勝町でゼロ・ウェイストを宣言するに至ったきっかけは、高齢化と過疎化が進むことで町の税収が減り、ゴミ処理に費用がかけられなくなってきたこと。導入した小型焼却炉が様々な理由で閉鎖を余儀なくされ、国の法規制も厳しくなり、切実な思いでゴミ政策を推進してきたそう。その結果、野焼きをしていた90年代から一般家庭ゴミ45分別の現在へと進化している。町にはゴミの収集車がないため、町民全員が町の中心部にあるゴミステーションにゴミを持ち込む必要がある。ステーションの管理を町から請け負っているのがNPO法人ゼロ・ウェイストアカデミーだ。
「45分別っていうと、みなさんとても驚かれます。当然ですよね。でも、実は資源化という意味では、そこまで分別しなくてもいいんです。例えば、このラップの芯。ラップの外箱の柔らかい紙と、芯の固い紙はリサイクルの工程が違います。そのため、リサイクル業者からこれを分けてほしいと言われ、ステーションに„固い芯“コーナーができました。そうすると、『トイレットペーパーの柔らかい芯はどこに入れるの?』ってなりますよね。分類上は他の雑紙でいいんですが、 わかりやすくするため„柔らかい芯“コーナーができました。 ゴミを持ち込んだ人がどこに分類したらいいのかわからない、というストレスを最小限にするのがこの活動を続けるためにはとても重要なことです。業者の資源化のしやすさに加え、町民の方のわかりやすさを追究したら45分別になりました。」
そう話してくれたのは同NPO法人理事長の坂野晶さん。大学で環境政策を専攻していた時の同期が上勝町の出身で、ゼロ・ウェイストの取り組みの視察に来たのがこの町との出会いだった。理事長になる前は海外で働いていた経験があり、世界中からの視察や講演依頼、取材にも経験を元に自らの言葉で発信している。
NPO 法人ゼロ・ウェイストアカデミー 理事長 坂野晶(さかの あきら)さん 絶滅危惧種の飛べないオウム「カカポ」がきっかけで環境問題に関心を持ち、大学で環境政策を専攻。国際NGOや企業でのキャリアを経て、2015年より現職。地域内での資源循環や3R推進を主導するとともに、廃棄物の発生抑制分野で多様な団体と連携した調査研究や制度設計を行っている。
認証制度でゼロ・ウェイスト発信基地を拡大
ゼロ・ウェイストに取り組む町のお店の方々が集まる勉強会。
「うちのNPOは、ゴミステーションや無料で持ち帰りができるリユースショップ、不要になった衣類のリメイクショップなどの管理・運営を主にやっていますが、一番は普及活動なんです。上勝町ゼロ・ウェイスト宣言の中には、最後に『地球環境をよくするため世界中に多くの仲間をつくります!』という一文があります。社会全体の仕組みとしてゴミを減らす方法を考えるためには、同じ志を持った団体とつながり、一人一人にそうした意識を持ってもらうことが必要です。」
「普及活動の一環として2016年から始めたのがゼロ・ウェイスト認証制度です。これは、お店(特に飲食店)がゼロ・ウェイストに取り組むことでその発信基地を増やし、店に来るお客さんにもゼロ・ウェイストに対して意識してもらうことが目的です。今は上勝町内にある7店舗と、長崎県に1店舗(2018年1月現在)ですが、今後は全国にこの制度を広めていきます。この認証がお店の集客につながるところまで、認証の価値を高めていきたいです。」
ゼロ・ウェイスト認証は6種類の基準で分かれ、クリアできている項目での認証を受ける(すべてクリアしていれば認証は6つ)。この認証制度の最大の特徴は、ゴミ処理の問題には触れていないこと。ゴミの分別や資源化は“できていて当たり前”なのだとか。また、認証の種類の中で興味深いのは「オープン・フォー・アクション(お客さんがゴミ削減に参加できる情報を発信する)」。 これは、例えば、「お店ではおしぼりを出していないのでハンカチを持ってきてください」といったように、お客さん自身にゼロ・ウェイスト的な動きをしてもらえるような仕組みを作っているかどうかを判定する。単なる認証で済ませず、一人一人の行動につなげたいという想いがこもっている。さらに、そこにはお店の人とお客さんとの対話を生み出したいという狙いもあるのだそう。
ライフスタイルとしてのゼロ・ウェイストへ
「これからの環境活動は、オシャレでカッコイイことが大事だと思います。これまでは、脱焼却炉!とか、行政への政策提言!とか、何かに反対したり、誰かと戦ったりすることが多かったんですよね。 自然と調和した暮らしがオシャレで素敵だと感じる動きが世界中にあって、そこに共感した若者たちはゼロ・ウェイスト的な生活を送っています。そうした動きの中で広めていく方が、楽しいですよね。環境のために敢えてゼロ・ウェイストに取り組むので はなく、ひとつのライフスタイルの中にゼロ・ウェイストが入っている、みたいな。また、個人の生活が、地域の問題や社会システム、環境問題などすべてにつながっていると感じられることは少ないから、その一つのきっかけになればいいなと思って活動を続けていきます。」 若手がアイディアを出して活躍しているNPO法人ゼロ・ウェイストアカデミー。柔軟な考えと機動力が、オシャレでカッコイイ環境活動のムーブメントを起こそうとしている。
ゴミのない 日本で最も美しい村 「日本で最も美しい村連合」に加盟している上勝町。ここは「日本の棚田百選」「国の重要文化的景観」にも認定されている樫原の棚田。江戸時代後期に作成された絵図には、水田や家・道までもが現在と同様に描かれているという。上勝町には他にも自然の美しい風景が数多く残されていて、自然環境保全につながるゼロ・ウェイストが根付いている。
(「暮らしの発酵通信」6号より)
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取材:2017年6月