大阪の中心で木桶を叫ぶ:食のセレクトショップ「きしな屋」
大阪府枚方市に本店を構え、2017年6月に大阪市内にも店舗をオープンさせた、「木桶とご当地うまいもの/きしな屋」。大阪せんば店は、地下鉄「堺筋本町」駅から徒歩3分、問屋さんやオフィス、飲食店などが立ち並ぶ大阪船場のにぎやかな街並みの中にある。 「発酵」「木桶」「こだわり食材」と聞いてキュンとくる方にはおススメの食のセレクトショップだ。
木桶に惚れた
店内に入るとまず目につくのが木桶をくりぬいたディスプレイ。この中に展示されているのは、木桶で仕込んだ醤油や味噌。中でも、小豆島のヤマロク醤油がこの店の原点だと店長の岸菜賢一さんは言う。
「初めて木桶の醤油の味を知った時、感動したんです。木桶の醤油ってこんなにうまいんだ!って。なんであんなにおいしいのか、まだ答えは見つかっていないんですが、木桶がなくなってしまったら自分の好きなあの味がなくなってしまうということに気づきました。 現在、木桶で仕込んでいる醤油は全体の国内生産量の1%もありません。なぜか。それは、木桶を作れる・修理ができる職人さんがいないからです。」 現在、木桶を作ることができる職人は全国でもたった1人。ヤマロク醤油では、「小豆島木桶職人復活プロジェクト」を立ち上げ、“木桶”という日本の伝統文化の継承を目指している。
「僕の目標は、47都道府県に1人ずつ木桶職人がいること。でも、木桶を語る上で木桶の作り方をちゃんと知っていないと話にならないから、プロジェクトには桶職人見習いとしても関わっています。 木桶って、ちゃんとしたものを作ると、100~150年も持つんです。人間の一生よりも長い(笑)。1回桶を作ったら、その桶をその人が直すことはほとんどないでしょうね。一人前の職人になるには数をこなさなければいけないけれど、そもそも木桶を使う醸造所が減っているから、その技術を磨くチャンスがない。注文がないから作る人も減って、技術自体が廃れてしまうという悪循環。 だったら、川上からせめて、木桶職人が存続できる環境づくりを始めようと思ったんです。」 そんな岸菜さんが思いついたのは“おひつ”。おひつは単純に言うと蓋がついた小さな木桶。おひつご飯が拡がれば、木桶職人が木桶職人として存続できるのではないかと考えた。現在は木桶やおひつに親しんでもらうためのワークショップも全国で開催している。
“旅する食のバイヤー”の厳選食材
元々食品関係の仕事をしていた岸菜さん。自身を“旅するバイヤー”と称している。きしな屋の中に陳列している全国津々浦々のこだわり食材は、すべて岸菜さんが自分の足で探し、生産者の方に会い、製品を味わい、直接仕入れをしている。 おひつご飯にぴったりな“ご飯のお供”や、相棒となる味噌汁のためのダシ、調味料、お菓子等々…店内の商品はすべて、ひとつひとつにストーリーがあるという。気になる商品の物語を聞くのもまた、その商品をさらに深く楽しむための大きな要因だ。
「作り手と使い手と売り手でつながりたいんです。僕自身、好きな人と好きな場所で好きなことをすることが好き。“日本の伝統文化である木桶の技術を守ろう!”とか、“希少な木桶醤油を作っている醸造所を応援しよう!”って、結果的にそういうことをしているんだけど、ちょっと感覚的に違うんですよね…うまく表現できないけど。自分が好きだから、好きなものがなくなるのは寂しいから、だからやってるっていう方がしっくりきますね。 最近は発酵食品好きな人が店に来てくれることが増えてきたけど、発酵と木桶ってまだまだ離れているような気がしています。僕は、そこをつなげたいし、木桶の良さを大阪の中心から発信していきたいと思っています。」
おいしくて健康にいい発酵食品。中身を知れば知るほど、それができる工程やそこに必要な資材の現状を知り、日本の歴史や伝統文化、今の社会の在り方などにたどり着く。肩に力を入れるのではなく、“自分がやりたいからやる”“好きだからやる”という岸菜さんの笑顔のスタンスが、この店のファンになってしまう一番の理由かもしれない。 木桶職人または、醤油屋さんになった気分でこんな写真撮影もいかが?