自分を生きる、社会をつくる:ふじわらひろのぶさん
日本全国を周りながら講演をし、バングラデシュで食事提供と学校建設を行っている特定非営利活動法人 NGO GOODEARTH 代表の藤原ひろのぶさん。地球上や社会で起きている問題は自分の生活とつながっていて、自分が変わることが世界の問題解決の糸口になることを伝え続けている。
特定非営利活動法人 NGO GOODEARTH 代表 藤原 ひろのぶさん 大学卒業後、一般企業に就職するが3年で退社。社会の様々な問題に目を向ける中、“貧困”というテーマに辿り着く。開発途上国で現地雇用を創出する為の事業を展開。食事サポートや学校建設・運営にも携わる。月間200万PVを誇るサイト「健康のすすめ」管理人として、日本と世界各地で講演活動を展開中。四児の父。
奪いすぎてしまったものを返すだけ
僕の友達に小学生の男の子がいるんですが、「僕が地球を守りたいのは、将来サッカー選手になりたいからなんだ。地球が無くなったら、サッカーもできなくなっちゃうでしょ。」と言うんです。 こういう話を聞くと、大人は「そうだね」と言いつつ、実際の生活となると「でもね」と言って、守るべきものをすり替えてしまう。これって、大人の思考が地球よりもお金に価値を置いているということですよね。今の日本人並みの生活を世界中がしたとしたら、地球が2.7個必要だと言われています。これは、僕らが子どもたちから前借りしているということです。 僕はバングラデシュで子どもを中心に食事を提供する活動をしていて、その活動を「すばらしい活動ですね」と褒めてくださる方が多いんですが、僕自身は素晴らしいとも何とも思っていなくて、「僕が奪いすぎてしまったものを返しているだけ」なんです。
日本の生活は、モノが溢れているでしょう?服も食べ物も、多くのモノが安くたくさん作られて大量に廃棄されている。僕らが安くモノを買える背景には、彼らの働きがあります。僕が彼らを支えてあげているんじゃなくて、彼らが僕を支えてくれているんです。だから「返している」ただそれだけなんです。 もっと人間として、生き物として「当たり前」の感覚で行動すればいいんですよ。おかしいと思ったら、声を上げて疑問を発信しないと。もし自分の意見が間違っていたら、謝ればいいんです。「間違いは許さない」という雰囲気が異常に強い。間違えないためには、何も言わないのが賢明だから、声を上げる人が少なくなる。ただ、沈黙は「容認」になってしまいます。「選挙に行かない」という行為(沈黙)は、「自分も、自分の子どもも、煮るなり焼くなり好きにしてください」という「容認」なんです。
自分軸で生きるとできることが見えてくる
講演会で話しをすると、たまにヒステリックになる方がいます。「服着ません」とか、「食べません」とか。僕がコンビニの前で唐揚げを食べていたら、猛烈に批判してくる方とか(苦笑)。自分はできないのに、人には完璧を求めてくる。もしくは、「自分はこんなに頑張っているのに、なんであいつはやらんねん」て、人の足を引っ張る人がいる。「誰かのため」「何かのため」というのは、他人軸なんですよね。「誰か(何か)のせい」と、外に原因を求めることも一緒です。
年間300回以上のお話会を開催
外に向ける矢印を自分に向ける。それが自分軸。これをすると、できることだらけになるんです。自分が楽しみながらやっていけることをすることで、輪ができる。そこに共感する人が集まる。誰しも、社会を変える力を持っています。その力を過小評価しているのも自分なんです。自分一人がやってもではなく、そもそも自分しか変えられないんです。 自分以外のものを変えようとして苦しんでいる人はたくさんいます。自分と違う考えを受け入れて、多様性を受け入れることで、人も社会もうまくいきます。問題はすべて繋がっているから、自分を変えたら確実に変わるんです。
幸せな社会をつくるための時間の使い方
自分が幸せじゃない人が、世の中や社会の幸せを願えるかと言うとかなり難しいと思います。本当に良い社会を生みたいのであれば、まずは自分が幸せになる必要があります。そのために使っていい時間を、同調圧力に負けて嫌なことに時間を使ってしまう。 「嫌い」と「怒り」という感情は、本来は別のもの。嫌なことが一気に怒りにつながってしまうのは、余裕が無いということです。自分が幸せになるために使っていい時間を、嫌なことに使い、時間と余裕を失い、そして幸せを失っています。 僕は、子どもたちの未来が危ないと知りながら、何もしない大人はカッコ悪いと思うし、それに同調したカッコ悪い自分の姿を子どもたちに見せたくない。だからこそ、自分が描く幸せのために時間を費やします。
育児や支払いに追われている人に、気候変動の話をしても聞いてくれるはずがない。でも、そういう人ほど大きな問題に目を向けないと目の前の問題は解決できないんですよね。そのためには、まず先入観を捨てることが必要なんです。「自分の家族のことは自分で解決しないといけない」「他人に迷惑をかけてはいけない」という先入観を捨てましょう。 行政とか、コミュニティとかに頼っていいんです。自己責任論で行くと、最終的にひずみが行くのはお母さん達なんです。お母さんが辛くなると影響が出るのは、子どもなんです。どの国でいつ生まれようが、子どもには食べる権利があります。それを守るのは、親の役割ではなく、大人の責任なんです。
仕事も暮らし方も世界の問題解決につながっている
僕は今、全国を飛び回り、自分が変わることが世界の問題解決につながるんだ、と講演会で伝えているけれど、最初から世界の問題を解決したい!と動くような人間ではありませんでした。 「貧乏人に何ができんねん」って言われて、ガムシャラに働いてきた僕は、それまでずっと金儲けのために仕事をしてきました。26歳までは一般企業に勤めていましたが、独立していくつか会社をつくりました。その中の一つがギニア人と立ち上げた製氷工場です。 それがめちゃめちゃヒットして、でも、なんでこんなに氷を買ってくれるのか疑問に思って調べたら、ギニアは暑くて魚が腐りやすいのと、冷蔵庫の普及率が少ないから、腐った魚を食べて下痢をして死ぬ子どもたちがたくさんいるという現状に行き着きました。この一件で、僕の仕事の概念がガラっと変わったんですよね。仕事の本質って「社会で起きている問題や課題を解決すること」なんだって。
「毎日の買いものは社会とつながっているから『買える』を『変える』」を提案する、メッセージイラストブック。
もう一つ言うと、仕事だけじゃなくて、毎日の小さな選択が世界の問題を解決することにつながっています。大きなことをしなくていい、絶望も感じなくていい、大きな問題を紐解いて、自分の生活に落とし込めばいいんです。僕一人が明日から山にこもってかすみを食ったところで世界は平和にならないでしょ笑。それよりも、コンビニに行って袋を断る、暑かったらクーラーつける前に水を撒く、寒かったら暖房つける前に一枚はおる・・・そんな感じでいいんです。 重要なのは、そういう方向に意識が向いているかどうかなんです。人口の5%がそういう意識になれば、政治家も企業も無視できなくなります。そうなれば、社会にルールができてくるから一気に変わります。大人が本気で社会と向き合えば、できることはいっぱいあるんです。そして、その姿勢を見て、子どもたちは学んでいってくれます。 つながりを知ること、自分自身の力を信じて行動すること、戦わないこと、そうしたことを今までも、これからも伝え続けていきます。
2021年3月取材。「暮らしの発酵通信」14号掲載