【開催レポ】味噌作りWS 体験

春分の日を越えると、沖縄の陽差しは急に春めいた。 季節の変化を感じて嬉しくなるような日に、EMホテル コスタビスタ内「暮らしの発酵カフェ」で行われた、味噌作りワークショップに参加した。

このところ、健康と免疫力の向上は誰にとっても切実な問題。味噌のような発酵食品には、腸内の善玉菌を増やす効果があり、免疫力向上に役立つらしい。「手作り味噌」と聞くとハードルが高そうだが、ワークショップでは先生の指導のもと、約1キロの味噌を作ることができるらしい。しかも持ち物は容器のみ、その他材料は全て用意されているという楽チンさ。事前に某ディスカウント・ストアに行って陶器製の小ぶりな壺を購入し、準備万端で当日を迎えた。

 

コウジカビと日本人

ワークショップの講師である相良先生は、発酵食品にまつわる様々な知識を惜しみなくシェアしてくれる。ご家庭では味噌をはじめ、毎日食卓にのぼる発酵食品を数多く手作されているという。発酵食品に魅せられ日々研鑽を重ねるうち、このワークショップの開催に至ったそうだ。

ワークショップは座学からスタートし、発酵や味噌についての理解を深めていく。事前知識ゼロでも分かりやすく、発酵の基礎から今回使用する菌(カビ)の一種、麹菌の説明などに耳を傾けていると、私自身も徐々に微生物や発酵の面白さに引き込まれていった。

日本には豊かな、独自の発酵文化があり、その発展に欠かせなかったのが国菌でもある麹菌(アスペルギルス・オリゼ)の存在だ。その源流をたどると、大陸から稲作や栽培技術と共に日本へ旅したとも言われている。その後は、日本人の手により雑菌の発生を防ぐための培養技術が開発され、独自の麹技術が発展していった。日本の南西部は、麹菌の発祥の地とされている土地に環境が似ているらしい。きっと、日本とコウジカビの相性は良いのだろう。

奈良時代に記された、播磨国の自然についての報告書である「播磨国風土記」には、すでに「神前に供えた餅にカビが生え酒となった」とあるそうだ。突然現われた微生物が、食品を全く別の美味しいものに変化させたのを見て、古代の人々は驚き感謝し、そこに不思議な力を感じたに違いない。見えないけれど、確かにいるもの。日本人と麹菌は、本当にはるか昔から共存してきたのだ。 「発酵」は、微生物の働きによっておきる。いわば発酵のタネである「カビ」「酵母」「細菌」といった微生物には、その働きが有毒なもの、そうでないものが存在する。発酵と腐敗は実は同じことで、どちらも微生物が働いている状態を表しているが、人間にとって有益な状態は発酵で有害なら腐敗、という風に区別する。そして有益な微生物は人の手によって培養され、食物を発酵させて味噌やチーズやヨーグルト、お酒など作り出す。だから発酵食品は、人間と微生物の共同作業の結晶なのだ。

麹菌の場合、タネとなる菌を培養して味噌や醤油、酒造メーカーなどに卸す「種麹屋(もやしや)」というお店がある。長年のノウハウが詰まった、日本古来の微生物培養ラボ。歴史的・学術的にも貴重な職業だが、後継者不足やメーカーなどが独自に麹菌を培養するに至り、日本には10社程度しか残っていないそうだ。今回使用する麹は、蒸した米に麹菌を仕込み繁殖させた「米麹」。秋田県「黒瀬農舎」から取り寄せた、受注生産のみという新鮮で貴重な生麹を使い、いよいよ味噌の仕込みに入る。ち なみに麹以外の原材料も全て、発酵エバンジェリスト・相良先生ならではのこだわりが炸裂したチョイスだ。厳選された安全・無農薬な食材を使って初めての味噌作りができるのは、とてもうれしい。

 

味噌作り実践!

まず、ビニールに入った大豆(柔らかく茹でられたもの)を潰していく。特にルールはなく、粒の入った味噌が好みなら粗めに潰し、そうでなければ麺棒などを使ってもいい。ペタペタペタ、とゲンコツで豆を潰していくのは実に楽しい。 手作業をすることに、思いのほかセラピー的な効果を感じていた。最近、なんだか気の滅入るニュースばかりだ。でもこうして、普段は当たり前のように買っていたものを手作りしてみるというのは、とてもポジティブな行為に思えて、久しぶりに気分がスッキリしていた。

周囲を見渡すと、やはり他の参加者の皆さんもワイワイ笑顔で作業をしている。 会場である「暮らしの発酵カフェ」が白とウッドを基調としたナチュラルな雰囲気というのもあって、とてもリラックスできる。塩と麹を混ぜた「塩切り麹」を潰れた大豆に加え、美味しくなーれと心で唱えながらこねていく。自分の手から微生物が味噌に混ざっていくのを想像すると、なんだか不思議というか、照れくさいような気持ち。つまりこれが、「手前味噌」ということか。作り手に付いている微生物のせいで、人によって味噌の味は変わってくるわけだ。どうか美味しくなりますように。

ひたすらコネた後は、5等分してボール状にしてから容器に入れていくのだが、その時に空気を抜くためにヒュッと投げて置いていくのがまた楽しい。投げては押し込みを繰り返し、容器に詰めて、最後に塩とラップで蓋をして完成。

思っていたより、ずっと簡単に出来た!不器用さでは自信のある私でも、これなら家で一人で出来るかもしれない。後は味噌が熟成するまで、風通しのよい涼しい場所に置いておけばOK。 沖縄の夏場なら4ヶ月ほど経過すれば、自家製味噌の出来上がりとなる。微生物の働きを邪魔しないように、家の中での保管場所も気をつけよう。最強の菌との噂もある納豆菌の介入や(味噌が納豆ぽくなってしまうそうだ)、トイレや玄関などに潜む大腸菌の影響を避け、最適な場所を確保しよう。

ちなみに、今回私は陶器製の壺を使用したけれど、プラスチック製の容器でも良かったな、と思った。透明なプラスチック容器であれば、味噌の熟成具合を蓋をあけることなくチェックできるからだ。仕込みが終わった後は、先生自家製の変わり味噌(鉄火味噌、辛味噌、マヨネーズ味噌、味噌っかす)を頂きながら、手作り味噌を使ったアイデアレシピなどを教えてもらう。

特に私が気に入ったのは、沖縄伝統のかちゅー湯だ。これは、お椀にたっぷりの鰹節とお湯を入れ、味噌を好きなだけ溶かすというもの。その日の体調や気分によって、味の好みは変わる。今の自分が、どれくらい塩分を欲しているかを日々意識するのは、すごく良いアイデアだと思う。手前味噌はまだ未完成でも、その日からさっそく毎日の食事に取り入れることにした。

 

味噌の中の宇宙

ところで、なぜこの潰れた大豆が「あの」味噌になるのか。なぜ大豆と麹だけでなく、塩が必要なのか。あの密封空間で、熟成までに何が起きるのか。それを少し紐解いて、このレポートを終わりにしたい。

まずは、塩と麹を混ぜて塩切り麹を作る理由から。それは、塩には腐敗を防ぐ力があり、麹菌が発酵しやすい状態を作り出すのを助けてくれる。塩には、魔を払う力があると信じられてきた。この腐敗を防ぐ作用を、古来から人々は知っていたのだろう。 そして、次は麹菌の不思議な力について。麹菌は酵素というハサミを持っていて、大豆に豊富に含まれるデンプンやタンパク質をチョキチョキと切り刻み分解し、「うま味」「甘味」などの成分に変えていく。それら成分に引き寄せられ、乳酸菌や酵母など、別種の発酵菌がやってくる。その菌たちがまた新たに「酸味」や「香り」を作り出し、かつて大豆であった何かをステージに、オーケストラの演奏が続く。

そしていつの日か、納戸の味噌壺を開けた人間は、複雑で深いコクと風味をそなえた「シンフォニー:味噌」の誕生を喜ぶのだ。ちなみに、今回仕込んだ味噌は生味噌、つまり菌の働きが活発な味噌なので、放置しておくとどんどん発酵していく。好みの発酵具合になったら、冷蔵庫に入れておけば発酵がスローダウンする。数年続けて発酵させた、真っ黒な熟成味噌というのもあるそうだ。

さて、今回のワークショップに参加して改めて感じたのは、目に見えないモノの力だ。科学の発展よりずっと前から身近だった菌たちと共存し、私たち人類は繁栄してきた。

世界がウィルスという微生物の脅威に怯える現在、もっと人類と共存可能な、有益な微生物たちの力に目を向けるべきではと、個人的には思う。これからもっと微生物のことを知って、様々な発酵食品を作ってみて、微生物の奏でるハーモニーを味わいたい。その結果、自分の腸内に善玉菌が増えていったら嬉しいことしかない。戸棚の味噌の中には、一つの世界がある。そんなことをぼんやりと考えていたら、明日のお味噌汁がもっと楽しみになった。

 


2020年3月25日開催

今後のホテルのワークショップイベント情報はこちらから

Information
暮らしの発酵DELI&CAFE
住所
沖縄県中頭郡北中城村喜舎場1478番地 EMウェルネス暮らしの発酵ライフスタイルリゾート内
営業時間
8:00~19:00

この記事を書いた人

花井 千春
ヨガ講師/絵本作家/発酵ライフアドバイザー

二児の母。まるヨガ代表。沖縄を拠点に、子育てや健康をテーマに情報発信や講座を開催。子どもの生きる力につながる絵本「おねつおばけ」著者。

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