沖縄から世界へ笑顔を届ける〈きくらげ小町〉

沖縄県北中城村で、ウェブマーケティング事業を手掛ける旭イノベーション株式会社の仲眞秀哉さん。2023年に農薬などの化学物質を一切使用せず、EM(有用微生物群)を活用したきくらげ栽培をスタートさせた。ウェブマーケティングからきくらげ栽培へ…その変遷をお伺いした。

カナダの経験がきくらげの強みを教えてくれた

旭イノベーション株式会社 代表取締役 仲眞 秀哉さん
1987年沖縄県生まれ。大学卒業後カナダへ留学。その後カナダで5年間勤め、日本とカナダの教育機関をつなぐプロジェクトやカナダ大使館留学フェア等の仕事を任される。 沖縄に戻り教員を経験後、ウェブマーケティング事業の会社を立ち上げ、沖縄から世界へ勝負できる産業を生み出すべく邁進中。

 僕は元々は教員を目指していました。教員になって子どもたちと接する以上「社会を知っておこう」「グローバル社会と言われているなら海外に行っておこう」と思い、大学卒業と同時にアルバイトをしてお金を貯めて、カナダ北西部のユーコン準州にある大学に入学しました。ユーコン準州はアラスカ州との国境にあって、冬はマイナス℃になり1日中太陽が現れない日(極夜)があります。
 人間は太陽を浴びないとビタミンD不足になります。ビタミンDが不足すると健康に問題が出てくるので、冬になるとこの地域の人たちはみんなビタミンDを摂取しています。北米・北欧では、国民の健康を守る施策として乳製品にビタミンDを入れることが義務化されているほどです。
 ビタミンDのサプリメントは市場にたくさんありますが、それらは動物性原料から作られています。サプ料なんて気にしていなかったんですが、実はきくらげってビタミンDが多い完全植物性の食材なので、これを世界に発信したら北米・北欧のビーガンの人達を助けられると思っています。

「きくらげ育てたらいいさー」のお告げ?!

 カナダの大学を卒業後、2年間沖縄の中学校で教員を務めました。でも、カナダでは自主性を重んじる教育だったのに対し、日本の教育は机に座って暗記をするような授業が多くて。自分の理想の教育の形を実現するには自分がやらないといけないと思い起業しました。とはいえ、教育事業はすぐに利益が出るものではないので、パソコン1台でできるウェブマーケティング事業から始めました。どのような商品が売れるのか、どこにお客さんがいるのかを調査し、欲しい人に届けばモノは売れます。
 マーケティングができていれば、どんな商品でも売れるんです。独学で実践して実績ができていたので、自分が何か商品を作った時はネットで販売できる自信がありました。これまでの経験と道筋の流れにきくらげの商品を乗せた、という感じです。

 でも、きくらげを栽培するとは全く思っていませんでした。6次産業(※)として農業は考えていたし、自分の子どもの教育としても良いと思ったので農業ができる土地を探して見つけたのが今の場所です。
 土地が手に入ってから何を育てようか考えたんですが、芋を育てるには土が悪いし、レモンを育てるには日当たりが悪いし湿気がある。農業は全くの初心者だったので、加工販売しやすい作物を育てるには適さない土地を買ってしまったんですよね(苦笑)。

※6次産業とは、1次産業(生産)・2次産業(加工)・3次産業(販売)それぞれの産業を融合することにより、新しい産業を形成しようとする取り組みのこと。

元はお化け屋敷のようだったハウス内を修繕。一人で始めたが、次第に家族や仲間が助けてくれた。

 元々はランが栽培されていた場所なんですが、何年も放置されて不法投棄などでゴミだらけの状態で、修繕まで10ヶ月くらいかかりました。何を栽培しようか考えながら片付けをしている時に、近所のおじいさんが散歩に来たので話をしていたら「きくらげ育てたらいいさー。栄養すごいし」とお告げのような一言があったんです(笑)。
 ちょうどその頃、息子がひどい便秘で何かいいものがないか探していました。きくらげが便秘に効くというのを知って、買って試してみたらとても良かったんです。だったらきくらげを栽培しようと思って調べたら、日陰で湿気があるこの土地にぴったりでした。

何百通りもの栽培方法を実験し、最終的にたどり着いたのがEM(有用微生物群)栽培だった。農薬や化学肥料などを一切使用せずに大切に育てられている。

6次産業で沖縄を元気にしたい!

 沖縄ではきくらげが自生していて、戦争中の食糧難の時は肉の代わりによく食べていたそうです。沖縄では豚の耳を炒めたミミガーという料理がありますが、その食感に似ているからか、おじーとおばーはきくらげのことを「ミミグイ」と呼んでいます。きくらげはそもそも中国から渡ってきたもので、琉球王朝では高級食材として食べられていたそうです。その流れをくんで沖縄料理でもきくらげは使われるので、郷土の歴史ある食材のひとつです。

 歴史的にもストーリーがあって、栄養価としても優れているきくらげをもっと多くの人に知ってほしいと思って活動していますが、僕にとってきくらげ事業は過程なんですよね。最終的に僕が目指しているのは障がい者の就労支援です。ヤマト運輸の元会長が書かれた『福祉を変える経営/小倉昌男』という本を読んで感動したんです。障がいがあるから最低賃金だったり補助金ありきだったり、「支援のために買ってください」という事業の在り方は長く続きません。良い商品を作るのは当たり前で、それを地域の産業としてみんなの雇用を生み出していきたいと思っています。
 〈きくらげ小町〉は無添加できくらげをパウダーにして販売していますが、美容や健康業界の会社から「このパウダーを原料供給してほしい」という引き合いがたくさんきます。でもそれは全てお断りしています。なぜなら、沖縄の産業にならないから。生産だけだと利益は上がらないんです。生産・加工・販売までやることによって、雇用を生み出せると考えています。6次産業化することで、僕の大好きな沖縄に貢献していきたいと思っています。

小町とは「町で美しいと評判の娘」という意味。小さな子どもからお年寄りまで美しくあってほしいという願いが込められている。女の子の着物は、知花花織という沖縄の伝統工芸の着物。沖縄の伝統を伝えていきたいという想いも込めて。

Information
きくらげ小町

この記事を書いた人

里菌 かこ
「暮らしの発酵通信」ライター/発酵ライフアドバイザーPRO.

EM生活㈱に10年勤め、農業・健康・環境などあらゆる分野での微生物の可能性について全国各地を取材し、EM業界紙に掲載。発酵ライフアドバイザーPRO.の資格を取得し、発酵食品についても広く理解を深める。ライティングだけではなく、ワークショップ講師やイベント企画も務める。

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