「藍をもっと身近に。」:亀田悦子さん
衣類を染めれば遠赤外線効果、体温調整、抗菌作用、消臭効果を現し、薬草として使えば、火傷や痛み止め、フグの毒消しにもなった藍。その昔、庶民の生活の一部であった藍を、今の人たちにももっと身近に感じてほしい、と活動を続けている方がいる。
「庶民の藍」文化を再び
徳島県海部郡海陽町にある㈱トータス、専務の亀田悦子さん。同社は120年の歴史を持つ老舗の肌着メーカー。「エンバランス」という水熱科学と微生物の発酵技術を融合させた特殊な生地を使い、それを自社で染めた肌着の販売をしている。
「ベトナムには、各家庭のかまどに必ず一つ藍の甕がある少数民族がいるそうです。そこはお医者さんがいないから、様々な薬効がある藍は自分たちを守る重要なツールで、その民族は全身藍染の服を着ているのだとか。家族のものをリメイクする(染める)ことも主婦の大事な仕事の一つだそうです。それを聞いた時にとっても感動して、これぞ生活の藍だ!と思いました。本来、日本の藍もそのくらい私たちの身近にあったんじゃないかしら。 現代の日本の藍染は伝統工芸品で、芸術作品が多いですよね。とっても素敵ですばらしいものなんですが、生活必需品ではなくなってしまっています。藍は食べてもいいし、薬にもなるし、こんなにすばらしいものだから、もっと普通にみなさんの生活の中に取り入れて頂きたくて。」
亀田さんは、敢えて伝統技術にこだわらず、藍の効能を守りつつもなるべく安い価格で提供できるように、徳島県の工業技術センターと協力して、工業生産化も目指しているのだそう。 「うちはね、肌着屋の藍だから、すくも法と呼ばれる伝統の工程をすべて踏んでいるわけではないんです。でも、ちゃんと藍の色が出ているし、検査してもらったら、抗菌・防虫など藍の薬効もきちんと出ていました。 私は藍さんとか藍ちゃんって呼んでるんですけど、泡とかで応えてくれるんですよ。1日1回は深呼吸してもらうために、混ぜるんです。今日は調子どお?って声をかけてあげるとね、ぷくぷくっ、ぷくぷくって、ちゃーんと返事をしてくれるんですよ。みんな笑うんだけど、本当なのよ。」
全身に藍染の服をまとい、優しくてあたたかい笑顔でこう語る亀田さん。その姿はまるで藍の妖精。藍たちとの会話が聞こえてくるようだ。
藍でつなぐ愛
「会社で藍染の肌着を始めたのは、EMとの出会いがきっかけでした。EMの開発者である比嘉照夫教授の書籍『地球を救う大変革』を主人が読んで、すぐに比嘉先生の講演会に行ったんです。そこで、エンバランス生地を知り、その肌着を作るようになりました。安全な特殊技術で作られた生地の肌着ができた!と、それを色々な所に持って売り込みに行っていたら、お客様が抱えている肌の悩みを知ることが多くなっていったんです。うちは肌着屋なので、医学的なことは全然わからなかったけれど、なんとかお力になりたいと思って色々調べていたら、藍に巡り合いました。」
「肌着を藍で染めてくれるところを探していた時、授産施設で作られた藍染作品の展示会が会社の近くでありました。授産施設というのは、危ない薬品を使えないんですよね。利用者の方が誤飲してしまったり間違って使ってしまう危険性が高いから。私はお客様から肌トラブルの相談を受けていて、化学薬品を使わない藍染がしたかったから、信頼してお願いすることができました。 藍の肌着を作るようになったら、今度は自分たちで栽培から染色までやりたいと思っちゃってね。約10年前から藍の栽培を始めたんです。藍は虫に弱くて、一晩で全部虫に食べられてしまうことがあるほどなんです。でも、私はEMを既に知っていたから、農薬や化学肥料を使わない栽培に挑戦できました。
EMの中には何種類もの良い菌がいて、状況に応じて役立つ菌が活躍してくれますよね。藍もそうなんです。一甕一甕に個性がある。甕を変えながら染め上げることで、それぞれがそれぞれを補ってくれる。今、私が皆さんにお伝えしたいのは、私たち人間もみんなで協力し合って、助け合って、補い合いましょう、ということですね。 この藍染を10年間続けてきましたが、ちっとも金銭的には割りに合わないんです。でも、最初から利益を求めていたら成功するはずがないし、世の中のお役に立てるなら、という想いでやってきました。お金じゃなくても、必要な人が必要な時に現れてくださるから、それって、間違ったことはしていないのかなぁって思わせてくれますね。」
エンバランス生地を藍染した肌着は、「さがし求めて」というブランドの「あまべ藍」シリーズで販売されている(トータスオンラインショップ)。「薄くてあったかい」、「子どもがこの腹巻とマスクを手放さないんです」など、全国から喜びの声がたくさん届くそう。「さがし求めて」というブランド名には、「専門家ではなくても、なんとか世の中のお役に立ちたい。私が今できることは何か」ということを探し求め続ける亀田さんの愛が込められている。 (「暮らしの発酵通信」6号より)