ミツバチが教えてくれる自然と調和した暮らし方:森谷妙子さん

海音(かのん)の森 森谷妙子さん(沖縄県/農家)

沖縄県の中部地方、嘉手納町。1000坪以上の畑で、ビワ、タケノコ、パイナップル、サトウキビ、パッションフルーツ、マンゴーなどの農作物が、たった一人の手によって育てられている。農薬や肥料を一切使用せずに野菜やフルーツを栽培しながら、養蜂も手掛ける森谷妙子さん。彼女とミツバチの世界を通して、自然と調和した生き方が見えてきた。

愛犬が教えてくれた本当の安全

森谷さんは東京都の出身。幼少から農業に親しんだわけでも、自然に近い環境で育ったわけでもない。しかし、それが反動となったのか、自然が大好きになった彼女は沖縄の海に惚れ込み、移住して農業を始めた。 森谷さんの農園「海音(かのん)の森」は、愛犬海音の名前からとったもの。森谷さんにとって、海音は大きな気づきを与えてくれる、大切な存在なのだそう。

「沖縄で農業を始めたとき無農薬でやるのはいいけど、カタツムリ退治用の農薬だけは持っておきなさいとアドバイスを受けて、車の中に入れておいたんです。そうしたら、ある日海音がそれを食べてしまって、生死をさまよう事態になってしまって・・・。ドッグフードと形と匂いがよく似ているから、ペットが間違って食べてしまうことがよくあるそうなんです。その後10年くらい経ってから、この農薬は作物から吸収すると人間にも有害かもしれないから、ということで畑の中では使用禁止になりました。あの当時は、安全だと言われていたのに。」海音が身をもって教えてくれたことは、まだ沢山ある。知り合いの農家さんから頂いた野菜を海音に食べさせていたら、具合が悪くなって病院へ行くことに。獣医師によると、医療薬の副作用か農薬の誤飲の症状のようだという。

「わたしは薬を飲まないから、海音が間違って薬を飲むことはない。『野菜に付いていた農薬の可能性はありますか?』と聞いたら、『そうかもしれないね。この子たちは小さいから。』と。その時、いくら安全だと言われているものでも、そうじゃない場合があるってことに気づかされました。今では、化学的なものは何も使わないことが一番安全だと思っています。 化学物質過敏症の方って、食べられるものが少ないですよね。彼らが安心して食べられるものの選択肢のひとつとしてうちのものを選んでもらえたら嬉しい。他の人たちと同じように食べることができたら、どの人にとっても安全な食べ物であると言えるから。」

蜂の力を信じて環境を整えてあげる

沖縄では、蜂蜜の採取のためよりも、農作物の受粉目的で蜂を育てる場合が多いという。森谷さんが蜂を飼い始めたのも、マンゴーの受粉がきっかけだ。受粉用の蜂は、早く育てて出荷するために砂糖水や花粉を与えられ、巣箱には抗生物質や防ダニ剤が使用されている。そうした当たり前と考えられている養蜂の手順に抵抗を感じていた森谷さんは、逆に化学的なものは一切使わない養蜂を実践するようになった。 農薬で蜂が減少していると騒がれているが、蜂自体が持つ抵抗力も年々衰えているという。

「人間が食べている農作物の70%は、ミツバチが受粉してくれています。だからミツバチがいなくなったら、人類は4年で滅んでしまうらしいです。砂糖水や餌が巣箱の中にあったら、蜂は蜜を採取する仕事をサボってしまう。しかも、砂糖水は自然界にないものだし、多種多様な栄養素が備わった花の蜜とは違います。栄養素の少ないエサで、トレーニングもせずに育った蜂が健全だとは思えない。だからますます、環境の変化に対応できない体になってしまった。蜂は、糖分を体内で発酵させて蜜をつくります。だから、砂糖が砂糖としては残っていないのかもしれない。でも、花の蜜ではないものから出来た蜂蜜はパワーも弱いと思います。」 この子(蜂)たちの力を信じているんです、と語る森谷さん。農薬を使用しない農園で自由に飛び回り、蜂自ら花の蜜を取りに行くことでできる蜂蜜は、とても力強いという。

「うちの蜂蜜はハーブが蜜源なので、どの蜂蜜を食べても、ちょっとハーブっぽい後味があるんですよ。」 蜂と接するときの森谷さんは、まるで瞑想をするかのように何も考えていないそう。イライラしたり、誰かに対して怒りを感じていると、蜂が攻撃してくるのだとか。だから、蜂に向き合うときは、いつも心穏やかにしているのだそう。彼女の深い愛が、ハーブの香りがする優しい蜂蜜の味に表れていた。  

コラム:姿を消すミツバチが意味するもの

ミツバチが作る蜂蜜は、食品としてだけでなく肌を健やかにする化粧品の成分や喉の薬、傷や火傷の治療薬など、何千年という歴史の間、様々な用途に使用されてきました。 そして私たちの食卓に並ぶ、色とりどりの野菜や果物。その多くが、実はミツバチの働きによって生み出されています。身体中に花粉をまといながら蜜を集めるハチは、植物が実を結ぶために必要な受粉を手助けしているのです。

もしミツバチがいなくなれば、この地球上から70%以上の野菜や果物が姿を消すだろうと言われています。そんな人間の暮らしにとって不可欠な存在であるミツバチが、現実に姿を消し始めています。 その直接的な原因であるといわれるのが、ネオニコチノイド系の農薬です。ミツバチを守るために、この農薬の使用を禁止する動きが世界中で広がりを見せています。私たち消費者がミツバチの大切さを知ることで、豊かな食卓を守り続けることができるのです。

Information
海音(かのん)の森 森谷妙子
住所
沖縄県嘉手納町屋良587
TEL
090-1080-5824
その他
森谷さんが丹精込めて育てた無農薬のフルーツやはちみつがご購入いただけます。

この記事を書いた人

里菌 かこ
「暮らしの発酵通信」ライター/発酵ライフアドバイザーPRO.

EM生活㈱に10年勤め、農業・健康・環境などあらゆる分野での微生物の可能性について全国各地を取材し、EM業界紙に掲載。発酵ライフアドバイザーPRO.の資格を取得し、発酵食品についても広く理解を深める。ライティングだけではなく、ワークショップ講師やイベント企画も務める。

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