崎山酒造廠:三日麹と軟水で仕込む泡盛

創業明治38年。100年の歴史を持つ崎山酒造廠がある金武町は、沖縄では珍しい軟水が流れる土地で、米の産地としても有名だ。崎山淳子さんは崎山酒造廠の専務を務める傍ら、深く幅広い知識と視野を武器に、様々なアイデアを生み出している。

三日麹でコクとうま味を最大限に引き出す

創業者が女性だったという崎山酒造廠(しょう)。ここでは杜氏をはじめ、昔から泡盛づくりに女性が関わってきた。 「酒造りで女性が関わることって、とても珍しいと思います。でも、麹づくりには女性が向いていると思いますよ。麹菌は生き物ですから、子どもを育てるような、細やかな感性が必要なんです。麹を作る過程で熱が発生しますが、暑すぎると麹菌が死んでしまいます。風を送って冷ましたり、米粒をバラバラにほぐしたり、育ちが悪い所のケアをしたり。子育てに通じるものがありますね。」 一般的に、泡盛用の麹を作るには2日かかるそうだが、崎山酒造廠では3日かける。麹菌が生み出す甘味とうま味、コクをじっくりと引き出すためだ。もろみを発酵熟成させるにも、通常の倍の日数をかけ、しっかりとうま味を溶け込ませるという。

泡盛に使う黒麹菌とはカビの一種で、学術名を「アスペルギルス・リュウキュウエンシス」という。リュウキュウ(琉球)と名前に入るとおり、沖縄特有の菌として知られている。気温が高い沖縄ではもろみが腐りやすい。それでも、黒麹菌はクエン酸を生成する力が強いため、酸の力で雑菌を繁殖させずに醸造が可能となる。

黒麹菌(くろこうじきん) 泡盛に使う黒麹菌はカビの一種で、学術名を「アスペルギルス・リュウキュウエンシス」という。リュウキュウ(琉球)と名前に入るとおり、沖縄特有の菌として知られている。 そのクエン酸は、疲労回復物質として知られていて、泡盛を蒸留した後に残る「もろみ粕」に豊富に含まれている。そのほかにも、泡盛は血栓を溶かしたり、活性酸素を除去したりなどの健康効果で知られ、その香りを嗅ぐだけでもアンチエイジング効果が期待できる、との研究結果もあるそうだ。 蒸留前のもろみは黄色っぽく、若干の酸味とうま味、甘味などが複雑に混じり合う発酵の味。蒸留されることで透明になり、スッキリとしつつも、味わいのある泡盛になる。

 

「菌たちの働きを、余すところなく活かす。」

搾った後のもろみ粕からもろみ酢

泡盛づくりには、捨てるところがないという。蒸留して残ったもろみ粕には、栄養成分がとても豊富に含まれていて、健康飲料として注目されるもろみ酢に生まれかわる。ただ腐りやすいために、もろみ酢を作るには蒸留してからすぐに搾る必要がある。崎山酒造廠では、泡盛醸造所の他に、もろみ酢の製造所も併設しているため、蒸留したての新鮮なもろみ粕を使用したもろみ酢が取れるのだ。

「もろみ酢として販売されているものの中には、腐敗を防ぐために大量の酸を加えた粕を使って作られているものがあります。これは天然の酸ではないので、酸味のとても強いもろみ酢になってしまいます。泡盛の発酵過程で作られる天然のクエン酸は、酸味がとても柔らかいんです。もろみ酢は、健康や美容効果がとても高くて、お酢よりも飲みやすいから続けられますよ。」 そして、もろみ酢をつくった後の粕は、豚などの家畜飼料に使われる。

もろみ酢の粕が薬膳味噌に

「それだけではなく、この粕を肥料にして無農薬のお米を作っている農家さんがいるんです。うちではそのお米を取り寄せて、薬膳味噌を作っています。その味噌に島らっきょうやシークァーサーを加え、味噌ディップにすると、泡盛のおつまみには最高ですよ。言うなれば、泡盛から味噌までの循環ができているんです。」

薬膳味噌は、昔の手作り味噌の風味が忘れられなかった崎山さんが、本格的に工場で味噌づくりを始めたことから生まれたそうだ。「医者に金を払うより味噌屋に払え」と言われるほど、味噌の健康効果は計り知れない。「健康に良くて美味しい味噌を作りたい」という想いで、崎山さんが全国各地を探して厳選したこだわりの原材料が使われている。 味噌は、一般的には米、麦、大豆などで造った麹と大豆を合わせたものだが、薬膳味噌の最大の特徴は、玄米、ハト麦、黒ゴマを麹にしていることだろう。そしてそこに、黒千石大豆と黄大豆、沖縄の自然海塩を加え、天然醸造で作られる。素材の特性を最大限に引き出すために、泡盛づくりで培われた技術が、ここでも存分に活かされている。 黒麹菌が最大限に力を発揮できる環境を整え、それによって作り出されたものを、余すところなく活用する。沖縄の発酵の恵みが、様々な形で「美味しい健康」へと転換され、循環されていた。

Information
住所
TEL
URL
その他

この記事を書いた人

里菌 かこ
「暮らしの発酵通信」ライター/発酵ライフアドバイザーPRO.

微生物関連会社に10年務め、農業・健康・環境などあらゆる分野での微生物の可能性について取材し、業界紙に掲載。発酵ライフアドバイザーPRO.の資格を取得し、発酵食品についても広く知識を深める。ライティングだけではなく、ワークショップ講師やイベント企画も務める文武両道の発酵ライター。

関連記事