僕と自然と世界遺産

近代的なショッピングモールに世界遺産、ほどよい自然と海がある村・沖縄県北中城村(きたなかぐすくそん)。篠田宇希(しのだ ひろき)さんは自分が幸せだと思う生き方・環境を求めた結果、北中城村にたどり着き、世界遺産ハンター〈ひろきんぐ〉として村の魅力を伝えています。

「チャンプルーな村」北中城村

 僕は5年前に北中城村に移住してきたんですが、この村は一言で表すと「とんでもない村」です。世界遺産があり、国指定重要文化財があり、ほどよい自然がありながらも大型ショッピングモールがあって生活がしやすい。那覇空港から車で約40分なのでアクセスもいいんです。様々な沖縄の一面が混ざり合っていて、沖縄の方言で言ったら「チャンプルーしている村」ですね。

 ここに来る前はメキシコ、オーストラリア、スイスなどで世界遺産のガイドをやっていました。スイスは世界遺産の魅せ方が圧倒的に進んでいます。そこに行けば誰もが同じように世界遺産の素晴らしさに感動できるような観光の土台が整っているんです。でも、北中城村はそうした部分がまだ整っていません。その魅力を伝えていくのが〈世界遺産ハンターひろきんぐ〉としての僕の役目です。

「世界を見たからこそ、北中城村の魅力を伝えていきたい」とひろきんぐさん。

  琉球大学の荒川教授(記事はこちら)にもお世話になっていて、北中城村を訪れた方がこの土地や人の魅力を体感できるようなウェルネスツーリズムを企画しています。僕が北中城村の観光ガイドをしているのは、ここに住まわせてもらっていることに対する恩返しの意味もありますね。

人生に刻まれた世界遺産

 会社員をしたこともあるんですが自分には合っていなくて、就職した年に辞めました。体を鍛えることが好きだったし英語も得意だったから、スポーツジムで外国人相手にインストラクターの仕事をするようになりました。その外国人たちをかっこいいと思ったし、「外国で暮らすってどういう感じなんだろう?」と興味が湧いてきたんです。

  自分も外国で暮らしてみようと、100万円と空手の道着と黒帯だけを持ってオーストラリアに行きました。「大好きな子(当時)と一緒にエアーズロックに行く」という目標設定をして、半年間働いてお金を貯めました。それが叶った時の達成感とエアーズロックの景色への感動が猛烈なインパクトとして僕の人生に刻み込まれました。

様々な世界遺産を巡りガイドの体験を積んできた。(写真はメキシコのティオティワカン。)

  世界遺産って今の自分たちの生活に絶対必要なものではないですよね。でも、僕は20代の時に世界遺産に強烈な影響を受けたから今こうして仕事にしています。僕が旅の中で大事だと思っていることは、「自分はこういう人間になりたいとか、この場所に行きたいという目標設定をして、そこに行って自分がどう感じるか」です。

 北中城村には色んな魅力の切り取り方があるから、それをどのようにストーリー展開させて訪れた方に共感してもらうかを常に考えています。地域の財産と自分の今までの人生の材料を集めて脚本を書いているような感じがしてとても楽しいです。

ひろきんぐさんのガイドで〈北中城村道歩き〉。ここは太古の昔から人々が祈りを捧げてきた場所。先人たちと同じ場所に立ち、祈り、何を感じるかはあなた次第。

なりたい自分は自分で選べる

 人生は選択と決断の連続です。僕は選択をするたびに自分で決断して「なりたい自分を作れる環境に身を投じる」という行動を続けてきました。自分が大切にしている環境って何だろう?と、自分の心と対話をして気づいたのは、「空が広い」「海が近い」「星が見える」のこの3つの環境さえあれば、僕は幸福度が高いということでした。自分の物差しや天秤を作ると、多くの人と違う生き方をしていても他者と比べて優劣をつけることがないし、誰かから何かを言われても全く気になりません。友人から収入がこれだけあるとか、どれだけ偉くなったとかを聞いてもなんとも思わなかったですね。

 〈ひろきんぐ〉の名前の由来はヒーロー&キングです。本名は篠田宇希だし(笑)。みんなのリーダーとなって、誰一人取り残さない社会を作りたいと思っています。僕はメンタル強めなので(笑)、積極的に行動して自分で自分の環境を作り上げていくことに抵抗がないけれど、そういう人ばかりじゃないですよね。そう考えると「身を投じたい環境を作ってあげる」のが今の僕の役割かな、と思っています。

 そのためには、色々な価値観や意見に触れることが大切で、ガイドを通してたくさんの人と話ができるから、逆に自分が成長させてもらっています。「チャンプルーしている村」北中城村は様々な人の心地よさを用意しやすい環境があると思います。五感をフルに使って体感した北中城村を多くの方とシェアしていきたいです。

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世界遺産ハンター
ひろきんぐ(篠田宇希)さん
1987年生まれ。横浜市出身。大学卒業後にスポーツクラブでインストラクターとして従事。空手で全国大会8位入賞の実績を掲げ、翌年にオーストラリアへ初の長期滞在。そこで出会ったエアーズロックに感動し、周辺地区でガイドの仕事を経験。その後、メキシコとスイスの世界遺産ガイドを歴任。帰国後は沖縄県地域おこし協力隊として北中城村に着任し、北中城村の地域資源を活用した様々なツアーコンテンツをプロデュース。世界遺産ガイドやガイド育成事業、ウェルネスブランディング事業に携わる。

ツアーガイドご希望の方はひろきんぐFacebookにご連絡ください。


2023年4月取材

この記事を書いた人

里菌 かこ
「暮らしの発酵通信」ライター/発酵ライフアドバイザーPRO.

EM生活㈱に10年勤め、農業・健康・環境などあらゆる分野での微生物の可能性について全国各地を取材し、EM業界紙に掲載。発酵ライフアドバイザーPRO.の資格を取得し、発酵食品についても広く理解を深める。ライティングだけではなく、ワークショップ講師やイベント企画も務める。

掲載号
この記事は "暮らしの発酵通信" Vol.18 に掲載されています。
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