薬草と発酵で明るい未来を:ビオスチーム開発者 神原明子さん

よもぎやスギナ、松などの薬草と米ぬかや玄米を発酵させたエキスを焚き上げ、全身を蒸し風呂のように包み込む〈ビオスチーム〉。開発者である神原明子さんは、日本古来の技術を繋ぎながら、人と社会の笑顔を作り出している。

風呂の原点×日本の薬草×発酵

 風呂は「風の呂(ろ)」と書きますよね。私たちはお湯に浸かることを「風呂に入る」と言いますが、風呂はもともと「風をおこす呂」を意味していて、現代で言う蒸し風呂のことを指しました。浴槽に浸かるようになったのは江戸中期からで、それ以前は温泉の蒸気にあたって毒素を出し、毒素として出た汗を拭っていたそうです。温泉の蒸気にあたって体を治すということは縄文時代の人もしていたらしいですよ。

 〈ビオスチーム〉はパウダー状になった色々な薬草に玄米麹を混ぜ、それをお湯で焚き上げてスチームにして肌から吸収させています。これを始めた最初の頃は、バラとかハーブなどの海外のものも使っていたけれど、なるべく日本のものを使うようになって、よもぎ、スギナ、ドクダミ、柿の葉、松など種類の薬草と玄米麹にたどり着きました。

 ビオスチームの薬草は、全て無農薬でなるべく野生に近い状態で生育したものを使っています。玄米麹は遺伝子組み替えでない、昔ながらの製法の玄米麹をお米から調達して作り、薬草パウダーに混ぜ込んでいます。

無農薬のよもぎ、スギナ、ドクダミ、柿の葉、松など10種類の薬草と玄米麹を蒸して、植物のエネルギーを肌からいただく。

 私は発酵食品や薬草を生活の中に取り入れたら体調がとても良くなったし、子どもや夫もどんどん健康になっていきました。だから、これらの良さを若い人たちにも知ってもらいたいと思うけれど、若い時は体の不調よりも服とかメイクとか自分の外側に目が向くものですよね。

 そういう彼らに「肌から吸収させて発酵食品や薬草を食べたことにする」ことをしたいと思いました。日本には、フグの卵巣やソテツの実を発酵させることで毒抜きをして食べる文化があります。洗剤やシャンプーなどによる経皮毒※も、逆に、肌から発酵の良さを吸収させることで緩和させることができるんじゃないかと考えました。私はそれらの毒は悪として除去されるというよりも、包み込まれて発酵することで悪いものが良いものへと変換される、というイメージですけどね。外側からのアプローチでキレイになって、食べるものへの関心も高まっていったら嬉しいです。

※経皮毒とは、日常使われる製品を通じて皮膚から有害性のある化学物質が吸収されること。

古来の建築技法を今に

 私は探求癖があって(笑)、何か疑問に思うと徹底的に調べたり実験したりするんです。ビオスチームで使っている椅子もそうで、韓国のよもぎ蒸しの椅子は陶器でできているから座りにくく壊れやすいし、椅子の上に足を乗せて座ることができませんでした。

〈ビオスチーム〉開発者・神原明子さん。

 そこで、樹齢約200年の日本ヒノキでオリジナルの椅子を作ることにしたんですが、木を切るところから始めて、組み立て方は神明(しんめい)造りという穀物倉庫の建築技法を用いています。湿気を吸ってカビから食料を守り、乾燥している時は水分を蒸散させて食料の乾燥を防ぐという木の特性を活かしたこの造りを見た時に、蒸気に包まれる椅子だから同じ方法で作りたくなったんです。接着剤などの有害な化学物質を一切使用していないから、蒸気で有害物質が出てくることもありません。

大切な子宮のケアとして使われるため、合板や殺虫剤などが塗られている輸入の木は一切使わず、日本ヒノキを使用したこだわりの椅子。

おばあちゃんの知恵袋とアーユルヴェーダ

 子どもの頃、夏休みは長崎の祖母のところで暮らしました。祖母はバス停もない山奥に住んでいて、完全自給自足の生活をしていました。牛と豚と鶏とヤギがいて、お風呂は五右衛門風呂だし、薬と言えば薬草でした。痛みにはこの草、傷にはこの草といった感じで、まさに薬草仙人。その頃はこのような薬草を使ったりする暮らし方に全く興味が無くて、仕方なく祖母を手伝っている程度でした。

 高校を卒業してメイクの仕事に打ち込みすぎて、耳が聞こえなくなったり声が出なくなったり、乳がんになったりと、体がボロボロでした。代の頃はメイクとお酒と音楽漬けの日々苦笑。体を治しながら働こうと思って医療事務の仕事に転職したんですが、そこで西洋医学の限界を感じました。病気になったお医者さんが、抗がん剤ではなく、温熱療法やビワの葉療法などの民間療法を用いていると知った時に、「昔おばあちゃんがやっていたことじゃん!」と思ったんです。

薬草エキスが全身を優しく包み込むビオスチーム。

 そこから、薬草に詳しい人に話を聞きに行ったり、インドに留学してアーユルヴェーダ※を学びました。インドにいた時に、西洋医学とインド医学を学んでいる方から「あなたの国にも独自のアーユルヴェーダがあるのに、なぜそれをしないの?」と言われたことに衝撃を受けたんですよ。それまで、祖母が私にしてくれたケ アとアーユルヴェーダは全く別物だと思っていましたから。「そうか、おばあちゃんたちが民間療法でやってきたことが徐々に医療になってきたんだ」と気づいたんです。点と点が線でつながった瞬間でした。わざわざインドまで行かなくても、庭に生えている草で日本人は体を整えられるということに気づき、それ以来私は自分でお灸を作ったり薬草を煎じてお茶にしたりするようになりました。

※ア ーユルヴェーダとは、サンスクリット語のアーユス(Ayus/生命)とヴェーダ(Veda/科学)を組み合わせた「生命科学」で、インド・スリランカ発祥の伝統医療のこと。

薬草も菌も必要なものを補ってくれる

 庭って、管理する人が変わると生えてくる草が変わるんですよ。菌のバランスだけで言うと3ヶ月で変わって、年経つと植物の系統が目に見えて変わる。昔、夫が腎臓を悪くした時に庭に生えている草を調べてみたら、腎臓に効く薬草が生えてきていました。草はお世話をしてくれる人を治そうとして生えてくるみたいですよ。

 神明造りを用いることで、伝統技法の職人になりたいけど仕事がないという方の仕事になるし、日本の木を使うことで森の循環に貢献することができます。私は山暮らしをしていたことがあるから、森林を守ることが水源を守ることにつながることもよくわかるんですよ。

 腸内細菌や皮膚の常在菌もそうで、自分の菌と摂り入れる菌が調和することで健康が成り立つんですよね。腸内で言えば、世の中に出ている〇〇菌だけを食べていればいいというわけではありません。自分に足りないものを無意識に補おうとしているから、例えば「味噌汁飲みたいな」と思い、味噌汁に含まれている菌を自然に摂っているような気がします。

 皮膚で言えば、お産の時に産道を通った子どもは本来すぐに洗わず、産道の菌(お母さんの菌)をまとわりつかせて、その子に必要な菌が棲みつくのを待った方が健康に育つのだそうです。

 私は薬草や発酵を通じて、日本の素晴らしい生活の知恵と文化を知りました。雑草と呼ばれて排除されてしまう草も、除菌剤で殺している菌も、人を癒し、助け、いのちをつなぐ大切な存在なんです。それらが再び、私たちの生活に欠かせない仲間として共に暮らす未来をつくっていきたいと思っています。

 

株式会社MIKAHI 代表取締役 神原明子 さん
大手化粧品メーカーに勤め、ストレスで体調を崩したことから健康的な美しさを求め、自然療法、ヨガ、アーユルヴェーダ、そして、発酵と野草の養生に出会い学び続ける。自然をうまく活用して暮らしていた日本の文化や知恵の存在に感銘を受け、「地球を壊すものは自分たちを壊すこと」に気づき、ゼロ・ウェイストを目指した、環境を守りながらの美容と健康を提案していく会社づくり、サロンづくり、コミュニティづくりをしている。

 


2022年7月取材。「暮らしの発酵通信」16号掲載。

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この記事を書いた人

里菌 かこ
「暮らしの発酵通信」ライター/発酵ライフアドバイザーPRO.

微生物関連会社に10年務め、農業・健康・環境などあらゆる分野での微生物の可能性について取材し、業界紙に掲載。発酵ライフアドバイザーPRO.の資格を取得し、発酵食品についても広く知識を深める。ライティングだけではなく、ワークショップ講師やイベント企画も務める文武両道の発酵ライター。

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