自分が自分でいられる場所:さとうみつろうさん
縛りのないコミュニティスタイルで全国に広がりつつある〈セカイムラ〉。畑を中心とした〈ムラ〉でつながり、オンラインで情報交換をしている。セカイムラ発起人で作家、ミュージシャン、ナビゲーター、ブロガー等、様々な活躍をみせる〈さとうみつろう〉さんにお話を伺いました。
集まっている時が答え
リモートワーク、オンライン会議が当たり前になった現代社会の中で、SNSやインターネット上の交流だけではなく、「どこかの場所に実際に集まること」を大切にしているセ カイムラ。現在、村民は800名ほどで、全国10数ヶ所にセカイムラの登録をしている〈ムラ〉がある。ただ、「ムラとはこういうもの」という明確な定義はない。
セカイムラの活動は、みんなで直した古民家で発酵のワークショップをしたり、畑をシェアしたり、元々民泊をしているところに集まって畑を始めたり、自然栽培をしている農家さんのところを拠点にして集まったりなど、その形態は様々。セカイムラメンバー(登録者)だけで集まっているところもあれば、セカイムラメンバー以外のメンバーも一緒に活動しているところもある。
「セカイムラのオンライン会議は毎月2回、満月と新月の時に開催しています。オンラインで地域を結ぶことによって、西側で農業が不作で種が採れない時は東側に分けてもらうとか、そうした助け合いができます。セカイムラは僕が発起人ではあるけれど、現場に関しては管理していないし、詳細も把握していません。みんなが自由に、やりたい人がやりたいようにやればいいと思っています。
『セカイムラって何ですか?』と聞かれると、正直、一言では答えられません笑。畑をみんなでシェアしていて、好きなことをみんなで叶えあって、みんなで子育てをしてそんな感じです。ただひとつ言えるのは、みんなが集まっている時には『セカイムラは何か?』という疑問が湧かないということ。
きっと、みんなが集まっている時はその答えを誰もが感じているんだと思います。集まれば、答えがわかる。集まっている時が答えなんです。」
「多様性」は生き残るための手段
「セカイムラのきっかけになったのは、ハタカツ(畑活)です。朝活ってあるじゃないですか。会社員が会社に行く前にヨガや英会話をするやつ。畑でも同じようなことができないかなと思って始めたのがハタカツです。素人が今の自分の生活を変えずに畑をする。空いた時間を使って畑をする人が増えたら、耕作放棄地を活かすこともできます。
沖縄のセカイムラ(みつろうさんの畑)を借りて、今から家庭菜園に挑戦するゆみさん。DDPは「三味線を弾いてみんなで歌って楽しむこと」。
僕自身は家族がいるから、田舎に移住して畑をするというのは現実的ではなく、生活にちょっと付け加えるくらいがいいと思っています。田舎を目指したい人と都会を目指したい人の両方が必要だと感じています。コミュニティづくりで失敗しがちなのは、同じ趣味嗜好の人だけが集まってしまうこと。
例えば、UFO好きが集まっているコミュニティにUFOが来て、見に行ったら実はUFOは敵ということがわかり全員殺されてしまう。そこに『UFOは危ないぞ』と言う人がいたら助かる人が増えるかもしれない。生物ってそういう形で残ってきたんだと思うんです。
趣味嗜好が合っていると最初はうまくいきますよね。でも、何か起こるとそれはものすごいリスクになる。自分は固まった何かにがっつり足を入れるよりも、ふわっと片足を入れているくらいが心地いい。どちらの型も用意してあげるのがいいと思っています。
沖縄にある僕の畑もわざとの職業の人を集めていて、経営者、定年退職者、学生、公務員、保育士色んな方が集まって、それぞれ㎡の畑を自由に使っています。主婦だったら子どもを送った後にここに来て畑をして帰る。サラリーマンだったら会社に行く前に畑をしていく。子どもを連れてきたら、畑にある小屋を使って子ども同士で遊んでくれるし、そんな感じの場所を作っています。
沖縄のメンバーの中に、不登校の子どもを持つお母さんがいたんだけれど、ある時子どもを連れてセカイムラのキャンプに来てくれました。色んな人が集まっていて様々な経験と考え方に触れたお子さんが、キャンプの後に『僕やりたいことが見つかったかもしれない』と目を輝かせていたそうです。」
夢はワンペアで叶う
photo by chiro
大人になってから「あなたの夢は何ですか?」と聞かれる機会は少ない。しかし、自分の夢を叶えてやりたいことができると同時に、他の人の夢まで叶えることができたら?みんなが一斉に幸せになれる仕組みがセ カイムラには組み込まれている。
セカイムラの村民になるためには村民登録が必要。その時に「DDP(Definition Direction Purpose:明確な方向性を持った願い)」というのを一人一人が宣言をする。そこがマッチングすることで、一気に複数人の夢が叶うことになる。
「みんなの願いを集めて焚き上げるというイベントをしたんですが、その時に全国から約2万通の願いが寄せられました。みんなの夢をざっと見ていたら、719番に『アトピーを完治させたい』という人がいて、812番に『私はヒーリングで病気の人を治したい』と書いてありました。2万通ある中の100番程度の並びの中で、治りたい人と治したい人がいる。土地を使ってほしい人がいて、土地があったら畑をやりたいという人もいる。この人達を会わせるだけでみんなの夢が叶うと思ったんです。
夢はワンペアになると叶うのかもしれない。それを実験的にやっているのがセカイムラのDDPです。個々のDDPはセカイムラ村民に公開されているので、みんなのやりたいことを集めてシェアして叶えあうことができます。」
幸せホルモンと呼ばれるオキシトシンは、まわりの人のために何か行動を起こしたり、やさしく接したりすることで分泌される神経伝達物質。これによって、さらに人は幸福感や他者への信頼が増し、ストレスや不安・恐怖心が減ると言われている。人と人との触れ合いが希薄になりがちな昨今には、人のために何かができる場所が求められているかもしれない。
自分の願いを叶えるだけではなく、自己犠牲を伴って相手の夢を叶えるために動くわけでもない。自分を開放し、想いを語り、夢を叶えあって、自然に支えあい、自分が自分でいられる場所、それがセカイムラ。
さとう みつろうさん(photo by chiro)
札幌の大学を卒業後、エネルギー系の大手企業に入社。「世界を変えるためには、1人ひとりの意識の革新が必要」だと痛感し、SNSで独自の考え方やエッセイ、詩や楽曲の発信を開始する。口コミで「笑えて、分かりやすい文章」が評判となり、各種人気ランキングで1位を記録。現在、音楽ライブや講演会などで全国を飛び回る傍ら、本の執筆やイベントの企画等も自身で手掛けるマルチなクリエイターとして活躍する。那覇市在住の子煩悩な3児の父。
2021年12月取材/「暮らしの発酵通信」15号掲載